中野みどり[美しい布を織る’15]展について

紬の着物を織り続けて38年の中野みどりの5年ぶりの個展。

2012年春に『樹の滴―染め、織り、着る』と題した作品集を出版した記念を兼ねての開催です。

作品集の後半では、中野作の着物の所有者による着姿の写真で構成されています。

着物には着物自体の美しさとともに、生身の身体に纏われたときの美しさとがあります。

中野の着物はその両方の美を満たしています。

身体に纏われたときの美しさは、身体が感じている心地よさをも伝えてきます。

触覚的なやさしさや機能性と、長い年月の着用に耐える堅牢性とは着物に求められる用途性であり、

中野はこれを重視しています。

着物自体としての美しさも、この用途性を基盤にして出てくるもので、

デザインやアイデアといった恣意的な作為に依るものではありません。

中野は岐阜県の郡上地方の紬を蘇生した宗廣力三(紬織・絣織の人間国宝、故人)の薫陶を受けています。

タイトルに「美しい布」という言葉を使わせてもらうのは、美が氾濫するこの時代において、

「堅牢の美」というものの意義を改めてアピールしたいという意図からのものです。恩師の教えでもありました。

会場では、身にまとって見えてくる“かたち”を是非ご覧ください。

 

作品集『樹の滴-染め、織り、着る』について

この本の特徴のひとつは、前半に紬の織物自体の美しさをアピールし、

後半に、着物の所有者自身がモデルとなった着姿の写真で構成しているところにあります。

着物は単に織物作家の「作品」であるだけでなく、12nakano_san_hon1 (2)

「着られるもの」であるという至極当たり前な考え方を現わすためです。

特徴の二つ目は、作者自身による解説の文章です。

この文章を通して、着物の美しさがどのようにして生み出されてくるかが、含蓄深く語られています。

一方で着物文化の消滅が案じられ、他方にファッションとしての着物がもてはやされるこの時代に、

「着物を着る」ことの意味を「着る人の内面を引き出す」という観点から語って、

着物文化の現代性を照らし出す内容になっています。

印刷は高精細印刷で、紬の織物の風合いや草木染の色合いの深さが再現されています。

これにより、物質としての「布の美 」と身に纏ったときの「実用の美」との両面が合さった形で、

紬織りの美の世界が愉しめる本となっています。

 

工 芸 評 論 / 笹 山 央 [ か た ち 21代表]

 

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